そもそもテレビゲーム、ネットゲーム、ゲーム全般ってのはとかく自分の人生に何の影響ももたらさないものと相場は決まっている。せいぜい役に立って、話のネタになるとか、暇な時間をつぶせるとか、現実逃避ができるとかそういうレベルだ。間違ってもファイナルファンタジーやったおかげで就職できましたなんて話は聞かない。 そんでね、ゲームやるぐらいだったら、英会話だとか、小説を読むとか、あるいは体を鍛えたりしたほうがずっと生産的だ〜って人は言うんですよ。そうですよねー、でもそんなことをさも常識人っぽく言う人はカスです。 何をするでも生産性。半ば狂ったように生産性を叫ぶ人たちは一体何なのでしょうか? 自分の将来像を見据え、限られた時間を自分磨きだけに昇華するその精神を最高のモノと捉え、そんな自分に一種のナルシズムを感じ、酔いしれ、それだけでは飽き足らず他人にズケズケと崇高なるナルシスト精神を押し付ける人は死ねばいいと思います。何が英会話だ、何が就活だ。ならば生産性を重んじるあなたは、今までの人生で一切無駄なことはしてこなかったか? そんな人間にいかばかりの人間らしさが含まれてこようか、ねえ、考えて。尊敬すべきお前ら。僕より断然崇高なるあなた達。 いわゆる勝ち組への羨望と嫉妬から話が逸れたので話を戻す。んで、ゲームの生産性についてだけども、やっぱりゲームに生産性があるかと言うと、NOだと思う。特に「俺、RPGでさ、レベル99まで上げちゃってさあ。隠しダンジョンもカス」とか言うような人種たちには、「へ、へえ。すごいね」とどこが凄いのか分からないけど、とりあえず「すごい」と返すしかなく、とまどいを隠せない。 ちょうどそれは、小6のとき。僕の家でFF7のマスター召還によって、セフィロスを一撃で倒すシーンをおよそ1時間もかけて見せ、当時未クリアだったFF7のエンディングまで見せてきやがった古田君のような人種のことを言うのだが、そんなゲーマー達が、ある界隈に、自慢げに蔓延っているのが現代です。生産性の欠片も見当たらない。 勝ち組はもちろんそういう人たちを真っ向から否定してきます。「で、それが何になるの? 隠しダンジョンクリアしたからなんだって? 内定は?」その問いにゲーマー達は黙る。そして少数の勇気あるゲーマーが、「ああ、自己満足だ。何が悪い」と半ば諦めの調子で開き直る。それを聞くと勝ち組のあんた方は、満足そうに鼻の穴をピクリと開き、「別に」などと、さも多くを語らないことが非難を示しているんですよと言わんばかりの冷笑を浮かべ、知的に笑う。ほんと死んじゃえばいいのにね。お前ら。 まあそう言いつつも、僕も勝ち組ファック教の信者でありながら、「隠しダンジョンとかまでやって意味あんの? キメェwww」派の人間でもあるので複雑です。でもさ……正直否定しますよねー。ゲームする人はいいけど、ゲームをやりすぎる人は関心しない。気持ち悪い。現実を生きろよ。 しかしすぐさまそう言ってしまうのは、早合点である。ある事物を否定する場合、その事物をよく知り、偏見をなくした目で愛そうと務め、長い時間をともにし、そして最終的に「やりすぎゲーマーキメエwww」と否定するのがあるべき姿である。だから僕はまずやりすぎゲーマーのことを知ろうとした。とりあえずドラクエ6をトコトンやりこんでみた。
ドラゴンクエスト6 〜幻の大地〜 (スーパーファミコン) ジャンル:RPG
こんな感じにめでたくハッピーエンドを迎え、当初の目的は達成。別段達成の模様はどうでもよいので、それは各々の裁量で脳内補完しといてください。 そんなことより特筆すべきは、1回目のダークドレアム戦に破れたあと2回目のダークドレアム戦に突入するまでの中略である。この中略、文で見るとあっさりしてますが、この間に僕は834回ものザコ敵との戦闘をしています。それは職業レベルをあげて特技を覚え、目的の戦術に持っていくために最低限必要な戦闘であったのですが、なんせ834回ですよ。ええ、数えました。「正」の文字がありえないほど増えていくのは壮観としか言いようがありません。 RPGをやってるとき。ストーリーが展開したり、殺るか殺られるかのスリリングなボス戦等等は、本当に楽しいひと時である。が、この834回の戦闘にはなんのドラマもなく、ただただ現れるザコ敵相手にAボタンを連打するだけの作業。まるで拷問だった。 だいたい100回を超えたあたりで、もうやめようかと思ったが、自分は不屈の精神力を持っていると言い聞かせることで我慢した。ちょうど220回目でトイレに立ったとき、Aボタンを押していた指がつったので泣いた。300回を超えたあたりで昼飯になり、母親に「あんたいつまでゲームやっとんの?」となじられる。315回目でさぼって昼ドラ「母親失格」を見た。チヒロが大変です。500回を超えたあたりで、ダーマ神殿でこまめにセーブし、井戸に入り、サンマリーノにルーラし、マーメイドハープを使って、くちぶえを吹き、かがやく息を使い、またくちぶえを吹く。という一連の作業をすべて無意識でやっている自分に気がついて、とうとう俺もプログラムに成り下がったかと考え始める。晩飯を挟む。700回あたりでバイトを雇いたくなる。750回目ぐらいで母親に本気で怒られる。そういえば俺、小6の春休みのときも「ワンダープロジェクトJ」をやりまくってて怒られてたな、と懐かしがる。「あんた22歳でしょ?」などと、なかば諦めめいた捨て台詞を吐かれる。成長してなくて泣きそうになる。834回。準備万端。ここまでおよそ10時間。10時間ザコ敵と戦闘し続けた。 この間に起こったことといえば、主人公がはぐれメタル職とぶとうか、僧侶をマスターし、パラディンになって「におうだち」を覚えただけ。そう、「におうだち」というチンケな特技を覚える必要のためだけに10時間も割かねばならなかった。もちろん、それはドラクエ6という二次元世界にのみ通用する特技。実生活は何も変わらない。 そして10時間のうちで僕がやったことといえば、主にAボタンの連打である。たかが「ダークドレアム」というワケの分からない二次元のやつをデジタル的に倒すためだけに、この労力。ありえなかった。これは最早労働であった。しかし金は出ない上に僕の家庭での信頼は著しく減退した。弟の視線が痛かった。 結局僕はレベル42でダークドレアムを撃破、かつ20ターン以内という早倒しであったので、隠しイベントのようなものを見ることができた。が、あとでネットで検索すると、当然のようにレベル1でクリアしてる輩がいたので愕然として涙を流した。それは悔しいとかそう言う低次元の涙ではなく、尊敬と賞賛の涙であった。レベル1クリアの詳細ものっていたが、僕が普通にプレイしたら3年ぐらいかかりそうな様子だった。あんたらすごい……神やで。 ということで「やりすぎゲーマーキメエwww」という僕の考えは見事に尊敬の念へと変えられ、その忍耐力と精神力にむしろ好印象を受けるようになった。だからみんな就職の面接のときには積極的にアピールしていけばいいと思うんだ。 「ダークドレアムを20ターン以内で倒しました」ってね。きっと内定は出ると思うよ。 |